はなれていても
                    はなれていても 君を想うよ
                    この世界の どこかで
                    君を想って 今日を過ごす


 キールは自室から夕日を眺めていた。鮮やかに真紅に染まる風景をただ見つめていた。

『恐いくらいに綺麗だね』

 ふと、いつかの彼女の言葉を思い出す。

『ここにいると、改めて自然の美しさがわかるの』

 そういって、自分に笑いかけた、誤って召喚された異世界の少女。
 喧嘩ばかりしていた。敵ばかりつくる自分を気にしてくれた。
 思い出すのは笑顔と拗ねた顔。
 失って初めて自分の気持ちに気が付いた。

「馬鹿か、俺は」

 彼女は帰った。自分が属する世界へ。待つ人のいる世界へと。
 気が付くのが遅すぎた。だから、止められなかった。曖昧な気持ちをこの世界は許さなかった。ならば。

「忘れない……ずっと、俺は覚えている」

 彼女を。
 離れていても、守れるように。強く想う、たった一つの祈りの呪文。





                    はなれていても 貴方を想う
                    夜に 朝に 想い続けるの
                    いつか 貴方の元へ 帰る為に
                    深く 強く 信じているから


 メイは校舎から夕日を見つめていた。鮮やかな真紅の色が人気のなくなったグランドを染める。

『行って見たいな、お前の世界に』

 ふと、彼の言葉を思い出す。

『どう違うのか調べたい』

 真剣な顔で呟いた青年。いきなり自分を呼び出した、異世界の魔道士。
 真面目過ぎて、敵ばかりつくっていた。少しだけ、言葉が足りない、でも優しい人。
 思い出すのは、怒った顔。時折見た、照れた顔が忘れられなくて。
 失って初めて自分の気持ちに気が付いた。

「馬鹿だ、あたし」

 帰ってきたのに。
 自分が属する世界へ。待っている人達のいる世界へと。
 何故、今になって気が付くのだろう?彼の側に居たかったと。
 曖昧な気持ちをあの世界は許してくれなかった。だから。

「信じているから……待っているから」

 彼を。
 離れていても、伝わるように。強く想う、たった一つの呪文。



fin



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芽衣メインED後の話です。キールと芽衣の話を書くと何故か二人が再会する為に別離する話が多い私。ううむ、何故だろう?

finish writing  99.07.22