『暗い瞳をしている……』
それがレオニス=クレベールの、シルフィス=カストリーズに対する第一印象だった。
この島には幾つかの国がある。
レオニスはその国の一つ、クラインという小国の騎士団に所属する近衛騎士である。
彼が、この村に来たのは、自国の皇太子、セイリオス=アル=サークリッドに命じられ、縁故入隊扱いとなる見習い騎士の子供を引き取りに来た為だ。
本来なら魔力の高いアンヘル種は、魔法研究院で留学生として扱われる筈なのだが、事情があって騎士団で預かる事となったらしい。詳細をあえて聞かず、レオニスは子供を引き取りに来た。
その方が、その者の質を見極めることが出来るだろうと考えたからだ。
そして今。目の前にいるどちらでもない者は、不安な気持ちを隠そうと必死で前を見据えている。
今だ確定しない性別。優秀な魔導師である同胞の中で唯一人、魔法を使えない。
二つの要素が、シルフィスの心に影を落とし、瞳にも影を映すのだろう。
もったいない、とレオニスは思う。
隔離された村に住む為に、自分に他の同胞より多くの選択肢があることに気が付かないとは。
なまじ、魔力が高い為に魔導師になる。その方が剣を覚えて苦労するより楽だからだ。
魔力の低い者は力を得る為に努力する、その努力をアンヘルの民は必要としない。
自分達に魔力があり、魔法が使えるという事は、空気と同じ位、当たり前の事だからだ。
だが、シルフィスは違う。魔力を持たない事で引け目を感じぬよう、多少剣に心得のある父親が、幼い頃から稽古を付けていたと言う。下地は出来ている。
そして、今は駄目でもいつか魔力が目覚めるかもしれない。魔力があれば、魔法を覚えられる。
剣と魔法、二つの力を持つ、おそらく自国では初めての魔導騎士が誕生することになるのだ。
選択が多いことの素晴らしさを知らないとは、何ともったいないことか。
育ててみたい。この可能性を多く秘めた、まだ何も知らない真白い子供を。
長老と会話するシルフィスを見つめながら、レオニスは、自分の止まっていた時間が動き出す音を聞いた。
fin