私の大学受験記

教室通信88号(平成11年1月)より

 書道教室でもご多分に漏れず、受験を控えている方や、ご家族に受験生がおられる方が少なくありません。この関門から逃げることなく、精一杯実力を発揮して突破していただきたいと思います。一昔前であれば、それが理由で書道を続けられなくなってしまうことが多かったのですが、最近はそうとも限らないようです。それが何故なのかを含めて、私の大学受験記をちょっと聞いてください。
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 私が中学・高校生の時、一番の得意科目は数学で、科学に興味があったので、エンジニアになりたいと思い、大学は工学部機械工学科を目指しました。受験勉強といっても、机に向かっている時間だけは長かったですが、座って居眠りも長かったように思います。そのためか、試験本番に向かうほど成績は振るわず、確か試験一か月前の模試では「シボウダイガクノヘンコウガノゾマシイ」とコンピュータに判定されてしまいました。それでも第一志望だけは変えたくなくて、試験当日を迎えました。
 今思うと、雰囲気に飲まれていたのでしょう。知らず知らずのうちにプレッシャーを受け、挑戦する気持ちを失っていました。当日朝、駅まで母が車で送ってくれて、別れ際に「ま、普段どおりにやってきなさい」と言われて、ずいぶんほっとしたのを覚えています。
1.定数a,b,c,p,q,Dに対して、次の等式
  (x3+ax2+bx+c)2=(x2−1)(x2+px+q)2+D
  がすべてのxについて成り立つとき、Dの値を求めよ。
2.a,b,cは1<a<b<cをみたす整数とし、(ab−1)(bc−1)(ca−1)はabcで割り切れるとする。
  このとき次の問に答えよ。
  (1)ab+bc+ca−1はabcで割り切れることを示せ。
  (2)a,b,cをすべて求めよ。
3.平面上の原点を中心とする半径rの円に、(r/√2,r/√2)で接する直線をLとし、L上に
  原点と異なる一点P(a,b)とする。
  (1)L上の任意の点Q(c,d)は適当な実数tをとることにより
     c=ta+(1−t)b
     d=(1−t)a+tb
    と表されることを示せ。
  (2)上の点Qが接点とPを結ぶ線分上にあるときのtの範囲を求めよ。
4.数列a1,a2,…,an,…のとなりあった二項an,an+1は二次方程式
   x2+3nx+Cn=0
  の二項である(n=1,2,…)。a1=1のとき Σ2pn=1n を求めよ。
5.二つの関数f(x)=x4−x, g(x)=ax3+bx2+cx+d が f(1)=g(1),f(-1)=g(-1)をみたす
  とき、積分
   ∫1-1(f(x)−g(x))2dx
  を最小にするa,b,c,dを求めよ。
6.積分I(a)=∫1-1|x−a|eXdx の|a|≦1における最大値を求めよ。  
 上は、第一志望の大学の、実際に受けた数学の試験問題です。試験初日の1科目めで、全6問で試験時間は3時間。今ではとても解けません。そんなに集中力が続きません。そのころはよくできたものだと感心してしまいます。
 実際の試験では、この問題がB4の一枚の紙の上に一問ずつ印刷されていて、以下ほとんどは余白、それが6枚に表紙がついて、綴じられて配布されました。試験開始までの間、ぼんやり表紙を眺めていたら、何と、1番の問題が透けて見えるのです!表紙を開けてはいけないけれど、見えるのだからカンニングではない。得したと思って、開始の合図があるまでの間、必死に1番を考え、開始の時は解答の方針ができあがっていました。(最近の受験雑誌を立ち読みすると、多くの受験生の皆さんこれをやっているようですね。)
 これで味をしめて、2番以降の問題を考え始めました。当時この大学の入試問題は難問揃いで有名で、半分(つまり3問)できたら絶対合格といわれていました。とくに4番は苦労しましたが、それでも、4問半も手についてしまったのです。全部合ってはいなかったでしょうが、終わってみれば会心のできでした。3時間はあっというまでした。
 休み時間を終え、次の英語の試験のために席に戻ると、変なことに気がつきました。周りに、いやに空席が目立つのです。あれ?この空席は、数学で失敗したと思って帰ってしまった受験生の席?まだ勝負はついていないじゃないか!
 数学のできがよかった(と思い込んでいた)ので、2日目の理科と国語を無難にこなせば合格できるとの思いで、その夜は眠ることができず、あとは散々のコンディションとなりました。朝食はのどを通らず、「早く終わってくれ」とだけ祈りながら、とにかく試験を終えました。
 合格発表で、掲示板に自分の名前を見つけても、感動も何もありませんでした。ただ、たった2日間の試験でも、世間の多くを見、多くのことを学んだように思います。何が幸いし、何が災いとなるかはわからないのだから、最後まで絶対にあきらめてはいけないのだということ。今、書の作品づくりの苦労においても、この教訓は生きています。
 受験生の皆さん、精一杯、頑張れ!

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