書く動作と脳の関係

教室通信127号(平成17年5月)より、一部修正

  勉強していて、単語や公式を覚えなくてはいけない時、どうやって覚えていますか。ながめているばかりではだめですから、書いて覚えていますよね。それは正解です。書くという動作は、脳と目と手を総動員しなくてはできない仕事なので、それだけ覚えるには有効な方法です。
 教室に通っておられる方から、「学校のノートの字が汚くて困るんですが」というご相談をよく受けます。お気持ちはよくわかるものの、今何を目的としているのか、問題点をよく明らかにしておく必要があります。
 ノートは、大切なことを書き留め、頭に入れるのが目的で、頭のリズムに合わせてある程度速く書くことも必要です。それで美しくというのは、行書を覚えているならともかく、小学生の方には無理かと思います。
 むしろ、勉強に役立つ字の書き方ということに焦点を絞って、「美しく」からは離れて、どうやったら頭に入るかで考えた方がいいでしょう。
 私の経験から、いくつかご紹介しましょう。
1.自分に言い聞かせるように、できれば声を出して読みながら、リズムに乗って書く。美しくと考えすぎると、リズムに乗れない。
2.座って書いて眠くなるより、立って、できる限り大きく書く。えんぴつはHB以上の濃いめで太めのものを。私は黒板にチョークで書いていました。ホワイトボードがあればもっといいかも。
3.英単語や数式で横書きの時は、前に書いたものを隠しながら縦に書き進めるのがいいです。縦書きと横書きをうまく組み合わせ、頭をそろえるなど、配置に工夫するのが、意外と有効な方法です。
 これらのことは、自分で工夫した方がよりよく身につきます。勉強方法を考えるのが勉強ですからね。
 幼稚園児が絵をかくのをみていたお母さんが、「好きなようにかいていいのよ」と笑っていたのに、その子が字を書き出したとたん、「こう書かなくちゃだめじゃないの」と怖い顔になる。なぜでしょうか。意味を伝える記号として生み出された文字に、人はものすごく厳格な見方をします。そうでなくてはいけないと思ってしまいます。ですから、文字を頼りにして勉強するのは、ごまかさずにちゃんと覚えるという意味で、根拠のあることなのです。書くのと、脳は近い関係にあると言えます。
             *   *   *
 ところで、書家は、いかに考えずに書くかに腐心しています。考え考え書いた文字は最も魅力がないとされます。気迫が前面に出て、作品をみる人に迫ってくるものでなくてはなりません。頭で書いて、そんなことはできません。そのあたりを、わかっていただきたいのです。

「もどる」