作品「心」について

教室通信113号(平成15年1月)より

 今回の昌熾会展においては、一般部理事以上の先生方によって、「心」の作品コーナーが設けられました。芸術としての書は、書く者の個性を大切にし、それぞれの思いで書くことを重視します。同じ心の字でも、考えていることは皆違うので、違った心ができあがります。
 さて、私の「心」についてですが、ヒントになったのは、鐘繇(しょうよう)の「宣示表」にある「心」です。
                 
 鐘繇「宣示表」より
 書を学ぶ者はいつも古典をもとに作品づくりをしますが、これも2世紀ごろのものです。この素朴で自然な字には惹かれるものがありました。
 心というテーマが決まった時に、頭ではない、ほんとうに心から発する字にしたいと思いました。ところが、これがとても難しいのです。筆を持って構えると、どうしても考えてしまいます。長い第2画を変化させて、格好をつけてしまいます。それでは「心」が表現できません。
 それで鐘繇の字を見た時に、そうかと思いました。何で第2画が下がっているのだろう。第1画からの流れで考えれば、下げたほうが自然だ。それも線というより、点としたほうが単純化できる。4つの点と考えて、できるだけ自然に、紙に落とすようにしてみようとしました。それでぽっかり心が浮かんでくるようなイメージで…。淡墨にしたのもそのためです。
 額はできる限りシンプルにしたいと考えました。本来は写真立てである透明のアクリルケースに入れました。飾りはない、という意味です。
 いかがでしょうか。

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