教室通信16号(平成2年4月)より
問題作ということばがあります。小説や、映画などでよく使われるようです。「注目・批評に値する作品」という意味のようですが、書の作品でも、そういうものがもっとあってよいのでは、と思っています。左は、ある書展に出品した私の作品『忘足』です。私なりに「問題作」とは言えないだろうかと考えています。 問題作と言ったときには、それが、後世まで残るような傑作であるとは限らないように思います。そのときに、周囲の議論を巻き起こし、作者自身の姿勢に変革をもたらした作品、とは言えないでしょうか。 『忘足』とは、対象と一体化する、という意味です。大地に二本足で立っていることを忘れる,物事に夢中になって、使っている道具のことを忘れることです。そんな気持ちで筆を持てたらいいなあというつもりで書いたのですが、どうにも表情が硬いのです。「忘」の心の四つの点のリズムなんか、自分で見ていていやになります。とても傑作とは言えないのですが、それでいてこの作品に愛着があるのも事実なのです。魅力は「足」の縦棒です。この線の冴えのおかげで、作品が明るくなりました。以後、私は作品づくりのときに、線の冴えというものを非常に意識するようになりました。 皆さんが日頃書かれる作品も、傑作とはいかずとも、問題作であってほしいと思います。傑作を、なんてことを考えるよりも、全力で書く。少々おかしいところがあっても、書いた本人が何か得るところがある。それでこそ作品をつくる意味があるのではないでしょうか。字の上達はもちろんとして、実生活の上でも… |