字がうまくなりたい

教室通信197号(平成28年12月)より

 30年近く教室で教えていて感じていますが、どんな小さな子でも「字がうまくなりたい」と思っています。これはとても大切なことです。実生活では書く道具として筆が使われなくなって久しいのに、筆文字にはいまだに心惹かれる、ペン字でもえんぴつでも、字は美しくあってほしいと誰もが思っています。 日本人に特有な、字への美意識の表われと言っていいでしょう。
 中国から漢字が伝わり、日本人はそれに日本語の音を当てて使い始めました。平安時代になると、貴族の女性たちを中心に、漢字を簡略化し、「ひらがな」を生み出しました。かなになるときには漢字の草書が基本になっていますが、それでも日本人特有のセンスが光っているように思います。現代がどんなにITの時代になっても、字に対する想いは日本人に脈々として血に受け継がれているのです。それは世界に誇っていいと思います。
 しかしながら字がうまくなるのは、とてつもなく難しいことです。こうやったらいいと思ってやっても、その通りにできない。とてもイライラして、投げ出したくなりますね。自分の手が、自分の思ったように動かないのですから。私のような、字を書くことに少し経験がある者に、「こうしたらいいですよ」と言ってもらえれば、まだいいです。それでも、書くのは自分ですので、やるしかないと覚悟を決めてやって行くより他に方法はありません。数学・英語などの勉強よりよほど難しいです。
 よく「字がうまくなりたいと思っていれば、もうすでに半分はうまくなっている」と言われます。そのとおりだと思います。まず、〜になりたいと思うことは何より大切です。それがどんなに世間知らずで、無謀なことであってもいいと思います。そこから、どんなに遅々とした歩みであっても、永久に努力を続けていることが大切です。その想いが、字をうまくさせてくれるのではないでしょうか。
 人が字に心惹かれるのは、その字を書いた人の人となりに惹かれるからです。無心になって努力を続ける…その姿が美しいのではと思います。幸い、書には年齢は関係ありません。それぞれの年齢での字の良さがあります。どうか、永久に(の想いで)筆を執り続けましょう。

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