■第1章 始まりの時

最近伸吾は変わったと思う。
何処がどう、と言われれば説明は出来ないんだけれど……
何となく変わった。
そして僕はその事実に不安を掻きたてられた。
とても怖かった。
僕と伸吾の関係に変化が訪れるのが。



「充流?どうしたんだぼうっとして。珍しいな」
僕の目の前には伸吾。なんら変わりない日常。
けれど僕は不安を拭い去れないでいる。
少し笑い方が変わった?伸吾ってそんな笑い方したっけ?
「充流ってば!」
「え?……あぁ伸吾ごめんね。少し考え事をしてた」
はっと気づき伸吾に謝罪する……が、伸吾は表情を曇らせる。
やば、気を悪くしたのかな。
そう思っていた僕の耳に伸吾の声が届いた。
「充流疲れているんじゃないのか?」
「やだなぁ、そんな事無いよ。大丈夫少し寝不足なだけ」
「あんまり無理するなよ?俺だって少しはフォローとか出来るし」
「うん、ありがと、ごめんね?」
少し首をかしげて謝ると、伸吾は『しょうがないな』という感じでため息をついた。
その仕草に僕はまた不安を感じた。



前はそんな表情しなかったのに。
何が変わったというのだろう。
伸吾の変化、一体いつ頃から?
春休み前は別段変わった所は無かったと思う。
……春休み中? 僕はずっと白鐘さんの家に居たからその頃の伸吾の様子は分からない。
休み明けはどうだったろう?
ホンの少しの変化だから一体いつからなのかは分からない。
けれど間違いなくここ最近の変化であるはずだ。
突き止めなくちゃ。
そうでないと僕のこの不安は取り除かれない。
そうじゃないと、僕は………



「ねぇ伸吾、聞きたい事があるんだけど良いかな?」
「聞きたいこと?充流が?珍しいな」
「最近何か、あった?」
そう言った瞬間、ホンの少し伸吾が息を飲んだのが分かった。
あぁ、やはり僕の気のせいでは無かったのだ。
彼に何かしら変化はあったのだ。
「何でそう、思ったんだ……?」
そっと囁きかけるように伸吾は僕に問うた。小さな小さな、声。
今にも消えてしまいそうな……
「何となく、かな」
「そう、か」
やるせなさそうに吐息を吐き出す。
淡い、微笑。
そっと僕から外される、視線。



その全てに僕は答えを見た気がした。
伸吾は誰かに恋をしているのだ。
そしてきっとそれは伸吾の片恋なのだ。
それが分かった瞬間に僕は自分が猛烈に黒い感情に呑まれるのが分かった。



自分が長年望んだ人の、心。
愛しくて、愛しすぎて触る事の出来なかった、人の……
自分ではない誰かが手に入れたのだ、それを。
もうそれは自分のものにはなりはしないのだ。
そして、それだけではなく……



僕はギリッと唇を噛んだ。
端が切れて口の中に血の味が滲むほどに。
そして僕は耐えた。



けれどそれは僕と伸吾との今までの関係の終わりであって。
僕にとっての新たなる苦痛の始まりだった………





2003.08.23
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