■第3章 告白
「山内先輩!好きです、僕と付き合ってください!!」
その言葉を聞いた瞬間、辺りは数瞬時を止めた。
呆然としたように下級生を見る伸吾と、真っ赤な顔で伸吾を見つめる下級生。
時は放課後、場所は校門前。
確かに帰宅部の伸吾を捕まえるには一番いい場所かも知れないけど……
周りには物見高い見物人があっという間に人垣を作っている。
「うわっ、あいつ勇気あるな〜こんな場所で告白なんて」
「確かあの子、一年の子だよね?緑桐ブックメーカーの一面に載っていたような気がしたけど」
「あぁ、今年の美少年コンテストNO1?」
美少年コンテスト?そういえばそんな物があった気もしたけど……
「それだけに自分に自信もあるだろうし……断られるなんて思ってないんじゃないか?」
「そう、でもないんじゃないかなぁ……あの子顔も真っ赤だし、緊張して振るえているよ?」
告白した下級生を弁護するわけでもないけど、何となく反論した僕。
とても羨ましかった、あんな風に告白できる勇気があるあの子が。
そして自分の不甲斐なさを痛感した。
「ていうかさ、山内なんて答えるのかな」
「多分断るんじゃないか?……だってさ、ほら」
「確かにね……」
僕の横でそんな会話を繰り広げている秋山達を視界の端に収めながら、伸吾に視線を戻した。
「ごめん……」
そっと呟かれる伸吾の言葉。途端に曇る下級生の顔。
「どうして、ですか……?」
駄目だ、それ以上聞いては。お願いだから僕の前でそんな事を聞かないで。
「どうして僕じゃ駄目なんですか?!!」
伸吾に食って掛かる下級生。
彼も切羽詰っているんだ。だってそうじゃなくてどうしてこんな場所で告白なんてしようと思う?
きっと彼は何日も悩んで、悩んで今日告白したんだ。
だからその分必死になる。
「俺、好きな奴居るから………」
「好きな、人」
「そいつじゃないと、駄目なんだ」
それを聞いた瞬間凍ってしまいそうな衝撃が僕を襲った。
分かっていた、だけど、それでも僕は……
下級生は今にも倒れてしまいそうな程白い顔をしていた。
きりっと唇を噛んで必死に泣きそうになる自分を留めている。
あの子と僕は同じだ……ただ一つ違う事があるとすれば……
彼には伸吾に告白する勇気があって、僕にはなかった。
「その人じゃないと駄目なんですか……?」
そっと囁くように伸吾に尋ねる下級生。
彼が尋ねたことは、そのまま僕が伸吾に聞きたい事。
駄目なの、伸吾。僕じゃ駄目なの?
瞬間伸吾は、今まで見たことがない程に儚い笑みを零した。
苦しみを全て受け入れたような透明な、笑み。
今にも空に溶けてしまいそうな………
「好きになってくれて、ありがとう……」
そう言って、伸吾が下級生の頭を優しく撫でてあげると、あの子は無言のままで一礼し走り去って行った。
「帰ろう、皆」
そう言って僕らを促す伸吾。
いつもだったら伸吾を茶化す皆も今日は無言のままだ。
痛いほどの沈黙が僕らを支配している。
きっと彼らも察したのだ、伸吾が片恋をしていると。
それが彼にとって苦しくとも切り捨てる事の出来ない感情であると。
帰り道、僕の隣を歩く伸吾をさりげなく見ながら、どうしていいのか分からない程の切なさを感じた。
きっと、伸吾が相手に向ける感情は僕が伸吾を思うのと同じ位の思い。
どれほどに苦しくともなかった事には出来ない……
僕は今まで伸吾に好きな人が出来た、というその事のみに囚われていて。
伸吾の苦しみに目を向けることはなかった。
そっと伸吾が笑った。大丈夫だというように。
その笑みは重く、僕の胸に圧し掛かった。
2003.08.31