■第11章 君は誰が為に咲く華か

「冗談、だろ………?」
掠れた声が僕の耳に届く、驚きを含んだ伸吾の、声。
「冗談なんかで、こんな事は言えないよ」
伸吾の目を見据えてはっきりと言い切った。
今を逃したら、僕はもう伸吾に自分の気持ちを伝える事が、出来ない。
だから僕は覚悟を決めて伸吾に言い切った。



きっと彼は戸惑うだろう、今まで僕は気の良い親友のフリをしてきたんだから。
落胆する?それとも僕の事を嫌悪するだろうか………
考えれば考えるほど、負の感情が僕を支配しようとする。
だけど僕は勇気を振り絞って伸吾を見つめ続けた。
目を反らしたら、負けだと思った。



「そんな、だって……」
案の定、伸吾は戸惑ったように僕を見返してきた。
そして考えあぐねた様に沈黙した。
針一本落としても音が聞こえそうな沈黙の後、伸吾がやっと口を開いた。
「充流は、付き合っている奴、居るだろ?それなのに……」
………付き合っている奴?
「白鐘さん………」
悲しげに白鐘さんの方を見やり、伸吾はそう言うと、再び沈黙した。



今度は僕の方が驚愕に眼を見開いた。
伸吾が知っているとは、気が付かなかったのだ。
別に伸吾を侮っているわけではないけれど、伸吾はああいった噂とかには疎いし、それにバレたとしても、すぐに分かると思ったのだ。伸吾は感情を隠すのが下手だから。
………知られていたなんて。



「山内」
その時、今まで沈黙を守ってきた白鐘さんが口を開いた。
「確かに俺と充流はそういう関係にあった事もある。その事は否定しない。多分俺と充流の関係は、他人には理解しがたい事だと、思う」
「白鐘さん?!!」
僕は抗議の意をこめて白鐘さんの名を呼んだ。けれど白鐘さんはそんな僕を無視し、話を続けた。
「俺にも充流にも好きな相手は別にいて、先の見えないその思いに、少し疲れていたんだろう……まるで俺たちは互いの傷を舐めあうかのように、付き合うように、なった」
「………」
「けれど、その事はもう過去の事だ。俺も、いつまでも逃げてはいられないからな……」
微苦笑して高崎さんを一瞬見つめた白鐘さんはなお、言葉を連ねた。
「にわかには信じがたいと思うが、充流は確かにお前の事が、好きなんだ………いや、そんな言葉では言い尽くせない」



その時、ツ………と伸吾の頬に雫が零れ落ちた。
それは純化された、美しい彼の涙。
「し、んご」
彼の頬に伝う雫を払おうと手を伸ばした時、伸吾の唇が動いた。
「………い、る」
「え………?」
伸吾は今、何と言ったのだろう?



キミヲアイシテイル



伸吾の唇から零れた言葉。
夢にまでみた、この世で一番愛しい人の、僕にむけられた言葉。
その言葉を聞いた時、僕の時間は一瞬止まった。




2003.10.12
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